発熱と痙攣の裏で進行していたもの 第3章 血液ガスから見えた敗血症の進行

前回は、敗血症ショックからDICへ進行する病態について考えました。

今回は、翌日に採血された血液ガスから、この患者さんの体内で何が起きていたのかを読み解いていきます。

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🩸血液ガス

酸素4L/分投与下

  • pH 7.46
  • PaCO₂ 20.6 mmHg
  • PaO₂ 54 mmHg
  • HCO₃⁻ 14.6 mEq/L
  • Na 147 mmol/L
  • K 4.6 mmol/L
  • Cl 119 mmol/L
  • Lac 37 mg/dL

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最初に確認するのはpHです。

今回は
pH 7.46
つまり、アルカレミアです。

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PaCO₂は20.6 mmHg

正常は約40 mmHgなので、
著しく低下しています。

呼吸性アルカローシスです。

敗血症では、

・高熱
・炎症性サイトカイン
・組織低酸素
・代謝亢進

などによって呼吸中枢が刺激され、
過換気になります。

その結果、PaCO₂が低下し、
呼吸性アルカローシスをきたします。

敗血症では比較的早期からみられる代表的な酸塩基異常です。

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HCO₃⁻は14.6 mEq/L

正常は約24 mEq/Lです。
代謝性アシドーシスも存在しています。

ここまで整理すると、

・pH アルカレミア
・PaCO₂ 低下
・HCO₃⁻ 低下

であり、

呼吸性アルカローシスと代謝性アシドーシスの混合性障害を疑いました。

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呼吸性アルカローシスの代償

呼吸性アルカローシスだけでHCO₃⁻が説明できるかを確認します。

正常PaCO₂を40 mmHgとすると、

40 − 20.6 = 19.4 mmHg低下

・急性呼吸性アルカローシスでは、
PaCO₂が10 mmHg低下するごとに、
HCO₃⁻は約2 mEq/L低下します。

予測HCO₃⁻
= 24 − (19.4 ÷ 10 × 2)
= 約20.1 mEq/L

・慢性呼吸性アルカローシスでは、
PaCO₂が10 mmHg低下するごとに、
HCO₃⁻は約4 mEq/L低下します。

予測HCO₃⁻
= 24 − (19.4 ÷ 10 × 4)
= 約16.2 mEq/L

実測HCO₃⁻は

14.6 mEq/L

急性・慢性いずれの代償よりも低く、
呼吸性アルカローシスだけでは説明できず、代謝性アシドーシスが合併していることが分かりました。

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代謝性アシドーシスの代償を考える

代謝性アシドーシスに対する呼吸代償も確認します。

Winterの式を用います。

予測PaCO₂ = 1.5 × HCO₃⁻ + 8 ±2
= 1.5 × 14.6 + 8
= 21.9 + 8
= 29.9 ±2 mmHg

予測範囲は
27.9~31.9 mmHgとなります。

しかし、実測PaCO₂は
20.6 mmHg

予測よりさらに低値であり、
代謝性アシドーシスに対する代償だけでは説明できず、独立した呼吸性アルカローシスが存在する
ことが確認できました。

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AGは

AG = Na − (Cl + HCO₃⁻)
= 147 − (119 + 14.6)
= 13.4 mEq/L

一見、正常〜軽度高値です。

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アルブミン補正AG

Albは4.6 g/dLでした。

補正AG = AG + 2.5 × (4.0 − Alb)
= 13.4 + 2.5 × (4.0 − 4.6)
= 11.9 mEq/L

補正後も正常範囲でした。

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なぜAGはあまり上がらないのか

乳酸は37 mg/dL、約4.1 mmol/Lでした。

乳酸アシドーシスなら、
AGはもっと高くなってもよさそうです。

しかし、Clは119 mmol/L
と著しく高値でした。

つまり今回は、

・乳酸アシドーシス(AG開大型)
・高Cl性代謝性アシドーシス(正常AG型)
が同時に存在し、
見かけ上AGが目立たなくなっていると考えました。

ΔAGとΔHCO₃⁻を比較しても、
HCO₃⁻の低下に対してAGの上昇が小さく、
この解釈を支持する結果でした。

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乳酸は

37 mg/dL(約4.1 mmol/L)

乳酸は、
組織低酸素による嫌気性代謝だけでなく、
敗血症では炎症性サイトカインによるミトコンドリア機能障害でも上昇します。

つまり、
ショックの重症度を反映する重要な指標でもあります。

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酸素化を評価する

PaO₂は54 mmHg

酸素4L/分投与中にもかかわらず、
著しい低酸素血症です。

P/F比を計算すると、

P/F比 = PaO₂ ÷ FiO₂
= 54 ÷ 0.36
= 150

となりました。

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ARDS?

P/F比150だけでARDSと診断できるわけではありません。

まず考えたのは、
肺水腫です。

肺水腫は大きく

・心原性肺水腫
・ARDS(非心原性肺水腫)

に分けられます。

心原性肺水腫では、
左心不全によって肺静脈圧が上昇し、
毛細血管内の水分が肺胞へ押し出されます。
つまり、
「圧」で起こる肺水腫です。

検査では、
・BNP・NT-proBNP上昇
・トロポニン上昇(原因疾患による)
・心エコー異常
・胸部X線で肺うっ血

などが診断の助けになります。

一方、ARDSでは、
炎症によって肺毛細血管内皮と肺胞上皮が障害され、血管透過性が亢進します。

その結果、
蛋白を多く含む液体が肺胞内へ漏れ出し、
ガス交換が障害されます。
つまり、
「圧」の問題ではなく、「炎症による血管透過性亢進」の病態です。

肺胞は虚脱し、
シャントが増加するため、
酸素投与を行っても酸素化が改善しにくいという特徴があります。

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今回の症例では、

・高熱
・敗血症ショック
・DIC
・乳酸高値
・P/F比150
・酸素4L投与下でもPaO₂ 54 mmHg
という所見を認めました。

感染による炎症が肺胞・毛細血管を障害し、
肺血管透過性を亢進させた結果、
ARDSへ進展したと考えると、
一連の病態を最も矛盾なく説明できました。

ベルリン定義では、

P/F比

200~300:軽症
100~200:中等症
100未満:重症

と分類されます。

今回のP/F比150は、
中等症ARDSに相当しました。

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💡この症例から学んだこと

・呼吸性・代謝性の両方の代償を確認することで混合性酸塩基異常を見抜けること
・AGは正常でも、高Cl性代謝性アシドーシスが隠れていることがあること
・乳酸はショックや組織低酸素だけでなく、敗血症による代謝異常も反映すること
・P/F比はARDSの重症度評価に有用であること
・肺水腫では「圧によるものか」「炎症によるものか」という病態の違いを理解することが重要であること

この血液ガスは、酸塩基異常を示していただけでなく、
ショックからARDSへと進行する病態を、教えてくれていました。