検体を見て、まず目に入ったのは糖尿病の検査値でした。
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血糖値:360 mg/dL
尿糖:4+
HbA1c:10.0 %
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「ずいぶん高いな」
「何か月も高血糖が続いている状態だ」
正直、最初に頭に浮かんだのは
糖尿病の管理ができていない、ということでした。
ーー
血糖360、HbA1c 10。
検体としては、かなり派手な値です。
この人、普段ちゃんと通院しているのかな
合併症は大丈夫だろうか
そんなことを考えずにはいられませんでした。
白血球数は1万程度で、
強い感染を示唆するほどではありません。
検査値だけを見ると、
「主役は糖尿病」
そんな印象を受けました。
ーー
しかし、実際の主病態は別にありました。
後から分かった診断は、被殻出血。
来院時には、麻痺も認められていました。
さらに診療録には、
高血圧性脳症という言葉が記載されていました。
最初に検査値だけを見て想像した病態とは、
まったく違う方向でした。
ーー
脳出血の検体は、意外と静かな値です。
脳出血と聞くと、
出血している
Hbが下がるのでは
輸血が必要なのでは
と考えがちですが、
実際にはそうでないことも多くあります。
被殻出血のような脳出血は、
出血は局所的
血管外出血
全身循環への影響は限定的
そのため、
Hbは保たれている
検体上、大きな異常が出にくい
ということが少なくありません。
命に関わる病態でも、
検査値は静かなことがある。
このギャップが、
臨床ではしばしば起こります。
ーー
今回の症例で、
糖尿病は主病態ではありませんでした。
しかし、
HbA1c 10 が示す長期高血糖
血管内皮障害
細動脈の脆弱化
これらは確実に存在していました。
脳出血を起こしやすい「土台」を作っていた。
そう考えると、
最初に糖尿病の検査値が目についたことにも
意味があったように思います。
ーー
この症例では、
高血圧性脳症という診断もついていました。
高血圧性脳症は、
急激な血圧上昇
脳血管の自己調節能の破綻
血管原性脳浮腫
によって起こる状態です。
高血圧により脳に流入する血液が増加すると、
毛細血管から血漿成分が血管外へしみ出し、
脳浮腫が生じて頭蓋内圧が亢進します。
糖尿病による血管障害があると、
この自己調節能はさらに低下します。
そこに高血圧が重なり、
高血圧性脳症
被殻出血
が生じたと考えると、
病態は一つの流れとして理解できます。
ーー
国試では、
糖尿病の合併症 → 脳血管障害、虚血性心疾患、壊疽
と暗記していました。
でも実際の現場では、
糖尿病が前面に出てこない
でも確実に背景として存在する
そんな形で現れます。
今回の症例は、
国試の知識が
臨床の中で「静かに効いている」
ことを実感した症例でした。
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💡この症例から学んだこと
・派手な検査値が、主病態とは限らない
・脳出血は検体に現れにくいことがある
・糖尿病は、合併症の背景として重要
・高血圧性脳症は、脳出血と連続した病態
・国試の知識は、臨床で必ずつながる
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おわりに
検体を見て、最初に気づいた異常は
主役ではなく背景でした。
この症例は、
検査値と病態の距離感を
あらためて教えてくれた一例でした。