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80歳代男性。
右半身麻痺と呂律不良で救急搬送。
既往に脳梗塞あり。
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主訴を聞いた瞬間、
まず思い浮かんだのは再発の脳梗塞でした。
麻痺。
呂律不良。
そして脳梗塞の既往。
「また脳梗塞かもしれない」
と強く感じていました。
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🔬最初に気になったのは、凝固検査。
凝固検査では、
・PT 29秒
・INR 2.9
・APTT 31秒
・Fib 270 mg/dL
・Dダイマー 0.5以下
PT延長を見た瞬間、一瞬身構えました。
「かなり延長している」
そう思い、カルテを確認すると、
心房細動があり、
ワーファリン内服中でした。
INR 2.9 は、
治療域上限寄りではありますが、
ワーファリンによる抗凝固状態として説明可能でした。
検査値は
内服状況や背景の病態を反映します。
💊 心房細動と抗凝固療法について
心房細動では、心房の収縮が不規則になり、
心房内、特に左心耳で血流がよどみやすくなります。
心電図では、
・RR間隔不整
・f波
を認める、典型的波形です。
この“血液のよどみ”によって形成されるのは、
血小板主体の動脈血栓というより、
フィブリン主体の血栓です。
そのため、予防には抗血小板薬ではなく、
ワーファリンなどの抗凝固薬が使用されます。
ーー
その後、診断は
てんかん重積性部分発作でした。
脳梗塞後の瘢痕部位は、
発作焦点となることがあります。
さらに発作後には、
・一過性麻痺
・構音障害
が残ることがあります。
いわゆるTodd麻痺です。
Todd麻痺は、
発作後に一時的に神経機能が低下する状態で、
・片麻痺
・失語
・構音障害
などを呈することがあります。
機序は完全には解明されていませんが、
・発作後の神経細胞疲弊
・局所脳血流低下
・神経活動の一過性抑制
などが関与していると考えられています。
症状は脳梗塞と非常によく似ています。
右半身麻痺。
呂律不良。
既往もある。
症状だけを見ると、
かなり似ています。
だからこそ、
後から診断が
“発作”
だったと知ったときは、
正直かなり驚きました。
Todd麻痺は時間経過とともに改善することが多いですが、
症状だけでは脳梗塞との区別が難しく、
まずは脳血管イベントを除外することが重要になります。
ーー
でも、尿検査が別の異常を示していた
検査を進める中で、
別の所見が目に入りました。
尿検査です。
・尿潜血 2+
・RBC 180 /HPF
・非糸球体型赤血球
さらに、
・集塊形成する尿路上皮細胞
・辺縁不整を思わせる細胞
も認められました。
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ワーファリンによって“見えてきたもの”
発作や脳梗塞そのものが、
直接血尿を起こすことは通常ありません。
もちろん、
ワーファリンの影響は考えられます。
ただ、抗凝固薬は
出血を“作る”というより、
背景にある病変を
“表面化させる”
ことがあります。
特に腫瘍では、
・新生血管が多い
・血管壁が脆い
という特徴があります。
通常であれば目立たない程度の微小出血でも、
抗凝固状態では止血されにくくなり、
結果として血尿として顕在化することがあります。
例えば、
・尿路結石
・膀胱炎
・尿路上皮腫瘍
などです。
高齢男性。
非糸球体型血尿。
そして、
集塊形成する尿路上皮細胞。
後日、尿路病変の精査につながりました。
今回の血尿は、
ワーファリンだけではなく、
背景にあった病変が、
抗凝固状態によって“見えやすくなっていた”
可能性が考えられました。
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主病態の陰にあるもの
救急では、
どうしても主病態に意識が向きます。
今回であれば、
脳血管イベントです。
それは当然のことです。
でも、
全身状態を把握するために行った尿検査が、
別の可能性を示していることもあります。
検査をしていると、
こうした場面にときどき出会います。
主訴とは直接関係のない所見。
でも、
無視していいとも言い切れない所見。
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当直で異型細胞を見たとき
夜間、救急対応中。
主病態はすでに動いている。
その中で、
異型を疑う細胞を見つけたとき、
どこまで踏み込むかは迷います。
悪性と断定する必要はありません。
ワーファリンの影響だけでは説明しきれない可能性がある。
その違和感を、
所見として残す。
緊急性は高くなくても、
フォローの必要性を示す。
それが現実的な対応だと感じています。
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💡この症例から学んだこと
・麻痺や構音障害は、必ずしも脳梗塞とは限らない
・Todd麻痺は脳梗塞と非常によく似る
・凝固検査から、患者背景が見えてくることがある
・心房細動では、抗血小板薬ではなく抗凝固薬が重要になる
・抗凝固薬は、背景病変を“見えやすくする”ことがある
・検査値は、主訴以外の異常を示していることがある
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検査値は、
主訴だけを映しているわけではありません。
今回の症例は、
そのことをあらためて考えさせるものでした。