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高齢女性。
右下腹部痛を主訴に来院。
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採血結果
総ビリルビン 2.7 mg/dL
直接ビリルビン 0.7 mg/dL
AST 80 U/L
ALT 49 U/L
γGT 300 U/L
ALP 110 U/L
LD 軽度上昇
CK 900 U/L
Na、K、Cl 正常
HDLコレステロール 90 mg/dL
BUN、Cr 正常
尿ビリルビン 陰性
Hb、Ht 軽度上昇
画像検査では、明らかな炎症や尿路結石は認めませんでした。
高度脂肪肝を指摘されており、以前から禁酒指導を受けている患者さんでした。
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γGTから読み取れること
最も目を引いたのは、
γGT 300 U/L
という高値。
γGTは胆道系酵素として知られていますが、
アルコール摂取でも上昇しやすい酵素です。
アルコールを分解する際、
肝細胞では薬物代謝に関わるミクロソーム酵素系(CYP2E1など)が誘導されます。
その影響でγGTの産生も増加し、
血中γGTが上昇します。
一方、
ALPは110 U/Lと正常範囲でした。
胆管閉塞や胆汁うっ滞が主な原因であれば、
γGTだけでなくALPも上昇することが多くあります。
今回はALPが保たれていたことから、
胆道閉塞よりも、アルコールによる慢性的な肝細胞への負荷を考えました。
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ASTがALTより高い理由
ASTは80 U/L、ALTは49 U/Lでした。
AST優位です。
アルコール性肝障害では、
AST>ALT
となることがよくあります。
その理由は二つあります。
一つは、
アルコールが肝細胞のミトコンドリアを障害することです。
ASTはミトコンドリア内にも存在するため、
障害を受けると血中へ漏れ出しやすくなります。
もう一つは、
慢性的な飲酒によるビタミンB6不足です。
・アルコール摂取による栄養摂取低下
・腸管での吸収低下
・肝臓での活性型ビタミンB6(ピリドキサールリン酸)への変換低下
・尿中への排泄増加
などが複合的に関与すると考えられています。
アルコールの分解産物であるアセトアルデヒドは、活性型ビタミンB6の代謝を障害することが示されています。
ALTはASTよりもビタミンB6への依存性が高いため、
B6不足ではALT活性が低下し、
結果としてAST優位になります。
今回の酵素パターンも、
高度脂肪肝や飲酒歴とよく一致していました。
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HDLが高い理由
HDLコレステロールは
90 mg/dLでした。
HDLは一般に「善玉コレステロール」と呼ばれています。
余分なコレステロールを回収し、
肝臓へ運び戻す働きを担っています。
そのため、
「HDLが高い=良いこと」
というイメージを持たれがちです。
しかし、
飲酒習慣でもHDLは上昇します。
アルコールを摂取すると、HDLの主成分となる
ApoA-I(アポリポ蛋白A-I)
の産生が増加します。
ApoA-IはHDLの”骨格”となる蛋白です。
骨格が増えることで、HDL粒子が作られやすくなります。
さらに、
CETP(コレステロールエステル転送蛋白)の働きも変化すると考えられています。
CETPは、HDLが回収したコレステロールを、
LDLやVLDLへ受け渡す役割を持っています。
イメージすると、
HDLが「回収車」、
CETPは「荷物を積み替える係」です。
アルコールでは、
この積み替えがやや起こりにくくなり、
HDLの中にコレステロールが残りやすくなります。
その結果、
血液検査ではHDLコレステロールが高く測定されることがあります。
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今回の
・γGT高値
・AST>ALT
・HDL高値
という組み合わせは、
飲酒習慣を示唆する非常に興味深い所見でした。
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ビリルビン上昇
総ビリルビンは2.7 mg/dL。
直接ビリルビンは0.7 mg/dLでした。
つまり、
間接ビリルビン優位の上昇です。
尿ビリルビン陰性、LDも著明高値ではありませんでした。
溶血を積極的に疑う所見は乏しく、
軽度の血液濃縮や、体調不良・絶食などによる一時的な肝取り込み低下、
あるいは体質(Gilbert症候群など)も鑑別として考えられました。
この値だけで原因を断定することはできませんでした。
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CKは
900 U/L。
CK上昇というと、横紋筋融解症を思い浮かべることがあります。
しかし、
今回の値は典型的な横紋筋融解症を強く疑うほどの高値ではありませんでした。
一方で、
CKは軽度の筋障害でも上昇します。
・腰背部筋の緊張
・筋肉への負荷
・長時間同じ姿勢
・活動量低下
などでも上昇することがあります。
また、
慢性的な飲酒では、
アルコール性ミオパチーによってCKが軽度上昇することもあります。
今回のAST上昇にも、
筋由来の影響が一部含まれていた可能性が考えられました。
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今回の主訴は右下腹部痛でした。
しかし、
検査値を一つずつ見ていくと、
・γGT高値
・AST優位
・HDL高値
・高度脂肪肝
・飲酒習慣
という、
一つの背景が見えてきました。
主訴だけでは分からない、
患者さんの生活習慣や慢性的な病態。
検査値は、
そうした背景まで教えてくれることがあります。
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💡この症例から学んだこと
- γGT高値は胆道系疾患だけでなく飲酒習慣も考える
- AST>ALTはアルコールの影響を示唆する重要なパターン
- HDL高値は必ずしも「健康的」を意味しない
- HDLの背景にはApoA-IやCETPなどの脂質代謝が関わっている
- CK上昇は筋疾患だけでなく軽度筋障害や飲酒でも起こる
- 主訴とは別に、検査値から生活背景や慢性的な病態が見えてくることがある
今回の症例では、
右下腹部痛の原因以上に、
検査値が患者さんの生活背景を語っていたこと
がとても印象に残りました。
そこに、
検査データを読み解く面白さがあるのだと、
改めて感じた症例でした。
