前回、血液ガスから、
重度の呼吸性アシドーシス+高AG性代謝性アシドーシスが同時に起こっていることが分かりました。
今回は、凝固、血算、生化学を見てみます。
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PT 20秒
APTT 100秒
Dダイマー 50 μg/mL以上
Hb 15 g/dL
Ht 50%
MCV 113 fL
MCHC 30 g/dL
血小板 18万/μL
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ここで特に気になったのが、
DICを示唆する凝固異常があるのに、血小板は18万/μLだったこと
そして、
貧血がないのにMCVが113 fLだったことです。
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DICを示唆する凝固異常
PT、APTTともに延長し、Dダイマーも著明に上昇しています。
この症例では、溺水による重度の低酸素・組織障害もあることから、DICを考えたいところでした。
一方、血小板は、
18万/μL
「DICなら、もっと血小板が低下していてもよいのでは?」
と少し引っかかりました。
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DICを見るときに重要なのは、
血小板数の絶対値だけではありません。
前値から、どの程度減少したのか
という変化も重要です。
例えば、
30万/μLから18万/μLまで低下した場合と、
もともと18万/μLだった場合では、
同じ18万/μLでも意味が違います。
DICの診断基準でも、血小板数そのものだけでなく、短期間での減少が評価されます。
今回は当院での過去データがないため、
血小板がどの程度低下してきたのかは分かりませんでした。
そのため、
血小板18万/μLという値だけを見て、
DICを否定はできませんでした。
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今回の採血は、溺水で救急搬送された際のデータでした。
溺水してから正確にどのくらい経過していたのかは分かりませんが、長時間経過した状態ではありませんでした。
血液ガスでは、
pH 6.4
PaCO₂ 90 mmHg
乳酸 260 mg/dL
と、呼吸と代謝はすでに大きく破綻していました。
凝固でも、
PT延長
APTT著明延長
Dダイマー著明高値
と、強い異常が出ています。
一方で、血小板低下はまだ著明ではありませんでした。
ここから、凝固・線溶系にはすでにDICを示唆する異常が現れている一方で、血小板低下はまだ大きく表れていない、急性期のDICを捉えた検査値と考えました。
急性期では、
基準範囲に入っているかどうかだけでなく、時間軸と変化を見ることが大切です。
ーー
次に気になったのがMCV 113 fLでした。
Hbは、15 g/dL
貧血はありません。
それなのに、MCV 113 fL
とかなり高い値です。
「貧血もないのに、なぜこんなにMCVが高いのだろう?」
と思いました。
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🔬貧血じゃないのにMCV高値。何を考える?
MCVが高いと、
ビタミンB12欠乏、
葉酸欠乏、
アルコール、
肝疾患、
網赤血球増加
などを考えます。
ただし、必ずしも
MCV高値=大球性貧血
ではありません。
大球性変化があっても、まだHbが低下していないことはあります。
ただ、今回のような急性症例でMCV 113 fLという値を見ると、
本当に赤血球そのものが大きいのか
と一度立ち止まりました。
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MCVは、赤血球1個あたりの平均容積です。
自動血球分析装置では、赤血球を希釈液の中で測定します。
赤血球は周囲の浸透圧などによって水が出入りするため、特殊な検体条件では、
測定時の赤血球容積が変化し、MCVが見かけ上高くなることがあります。
代表的なのが、
高度高血糖です。
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高血糖ではなぜMCVが高くなる?
高度高血糖では、血漿浸透圧が上昇しています。
その環境にいた赤血球が、分析装置内の希釈液へ移されると、周囲の浸透圧環境が急に変化します。
その結果、測定時に赤血球が膨化し、
MCVが偽高値になることがあります。
ーー
ただし今回の血糖は、189 mg/dL
高値ではありますが、
高血糖だけでMCV 113 fLを説明するほどの値ではありません。
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そこで改めて血液ガスを見ると、
乳酸は、260 mg/dL
mmol/Lにすると、約29 mmol/L
かなり極端な高乳酸血症です。
高乳酸血症などの強い代謝異常では、自動血球分析装置でMCVが見かけ上高く測定されることがあります。
そのため今回のMCV 113 fLについては、
真の大球性変化だけでなく、著明な高乳酸血症を伴う代謝環境による測定への影響と考えました。
患者さんの血漿中の代謝環境と、分析装置内での測定環境の違いによって、赤血球容積が変化することがあります。
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MCVが不自然に高いときに、もう一つ考えたいのが、
寒冷凝集です。
寒冷凝集では、赤血球同士がくっついて凝集塊を作ります。
自動血球分析装置は、その塊を、複数の赤血球ではなく、1個の大きな粒子として数えてしまうことがあります。
そのため、RBCは偽低値になります。
一方、凝集した赤血球は大きな粒子として測定されるため、MCVは偽高値になります。
ここで重要なのは、
MCVが大きくなることよりも、RBCが少なく数えられる影響です。
Htは、多くの自動血球分析装置で、
RBC×MCV
をもとに求められます。
寒冷凝集では、
RBCが大きく偽低値になります。
MCVは上昇しますが、その上昇だけではRBC低下を補いきれず、Htは低めに算出されます。
一方、Hbは赤血球を溶血させてから別の方法で測定するため、寒冷凝集の影響を比較的受けにくい項目です。
すると、
RBC↓↓
MCV↑
↓
Ht↓
Hbは比較的保たれる
↓
MCHC↑
という組み合わせになります。
つまり寒冷凝集では、
RBC偽低値+MCV偽高値+MCHC偽高値
が重要なヒントになります。
ーー
今回の結果は、
MCV 113 fL
MCHC 30 g/dLでした。
MCVは高いですが、
MCHCはむしろ低めです。
高乳酸血症や高度高血糖などでMCVが見かけ上高くなれば、
MCV↑
↓
Ht↑
↓
Hbは大きく変わらない
↓
MCHC↓
という今回のような組み合わせになることがあります。
寒冷凝集で典型的にみられるMCHC高値とは合いません。
そのため、今回のMCV高値を寒冷凝集による典型的な測定干渉で説明するのは考えにくいと判断しました。
もちろんMCHCだけで完全に否定するものではありませんが、少なくとも典型的な寒冷凝集のパターンではありませんでした。
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確認できるなら、
過去のMCV、
末梢血塗抹での赤血球形態、
網赤血球、
検体採取から測定までの時間
などを見ます。
装置から出た113 fLという数字を、そのまま大球性と判断しないことが大切です。
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最後に生化学を見ました
AST 130 U/L
ALT 130 U/L
と上昇していました。
上昇はしていますが、著明な肝障害というほどではありません。
腎機能は、
Cr 1.3 mg/dL
と軽度上昇していましたが、
BUNは正常でした。
血液ガスや凝固ではすでに大きな異常が出ている一方、
血小板、肝機能、腎機能の変化はまだ大きくありませんでした。
ここまで合わせると、
病態が急速に進行する途中の、比較的早い段階を捉えた検査結果であることがわかります。
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DICでは、
血小板が基準範囲内かどうかではなく、時間軸と変化を見る。
MCVでは、
数値だけではなく、Hb・Ht・MCHCとの整合性を見る。
今回、この2つがとても印象に残りました。
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💡症例から学んだこと
- PT・APTT延長、Dダイマー著明高値からDICを考える。
- DICでは血小板の絶対値だけでなく、前値からの変化も重要。
- MCV高値=大球性貧血ではない。
- 高乳酸血症を伴う代謝異常によるMCVへの影響がある。
- 寒冷凝集ではRBC偽低値、MCV偽高値、MCHC偽高値が特徴である。
- CBCではMCVだけを見るのではなく、Hb・Ht・MCHCとの整合性を見ることが重要。
- 急性期では「時間軸」、自動分析装置では「数値同士の整合性」を意識して見ることが大切。
