白血球正常? 分画から考える

────────────────────

高齢男性。
発熱と下腹部痛で来院。

WBC 9,000/μL
好中球 76%
単球 16%

────────────────────

初めは、採血結果だけを見ていました。

WBC 9,000/μL
基準範囲内です。

「白血球はそんなに高くないな」
そう思いました。

でも、
単球16%
の数値で手が止まりました。

WBC 9,000/μLなので、絶対数にすると、
約1,440/μL。
割合だけではなく、実数としても増えています。

「なんで単球がこんなに多いんだろう?」

そこから、主訴と検査目的を見ました。

ーー

主訴は発熱と下腹部痛
腎盂腎炎疑い。

尿検査を見ると、

蛋白 1+
潜血 ±
白血球 3+
細菌 1+

体温は39℃。

ここまで見ると、
尿路感染は十分にありそうです。

でも、
WBCは9,000/μL。
好中球は76%。

感染として矛盾はしませんが、
39℃の発熱があるわりには、白血球数はそこまで上がっていません。

ここで、

「感染っぽいのに、血算は思ったほど感染らしくない」

というズレが気になりました。

ーー

既往には、
腎移植後で免疫抑制薬を使用中
という情報がありました。

ここで、
WBC 9,000/μLの見え方が少し変わりました。

免疫抑制薬は薬剤によって作用が違うため、
「免疫抑制薬を使っているから白血球が上がらなかった」とまでは言えません。

ただ、

感染があっても典型的な白血球反応が出にくいことが十分考えられます。

ーー

この患者さんには、大腸癌によるイレウス
も疑われていました。
画像では、下腹部痛についてはイレウスが優位でした。
そうすると、
腹痛はイレウスで説明できそうです。

でも、
39℃の発熱はどこから?

単純なイレウスだけで高熱が出るのは典型的ではありません。

一方、尿では、

白血球3+
細菌1+

があります。

そのため、
腹痛はイレウス、発熱は尿路感染の可能性
というように、複数の病態が並行していた可能性を考えました。

ーー

🔬最初に引っかかった単球16%について

単球は、
感染、炎症、組織障害、悪性腫瘍
などで増加する、かなり非特異的な細胞です。

今回も、
尿路感染を疑わせる所見、
イレウスによる局所炎症、
悪性腫瘍という背景、がありました。

なので、

単球16%は、これらが原因であると考えました。

この数字がなかったら、
WBC 9,000/μLを見て、そのまま流していたかもしれません。

私にとっては、

単球増加が、主訴や病態を見直すきっかけになりました。

ーー

生化学では、

Na 130 mmol/L
血糖 310 mg/dL

でした。

Na 130だけを見ると低Na血症です。

ただし、血糖は310 mg/dL。
高血糖では細胞外浸透圧が上がり、細胞内から細胞外へ水が移動するため、血清Naは低くなります。

補正Naを計算すると、

130 + 1.6 ×{(310-100)÷100}
≒ 133.4 mmol/L

つまり、
見た目ほど強い低Na血症ではないと分かります。

ここも、数値だけではなく背景を合わせて読む必要がありました。

ーー

その後、この患者さんは、
尿閉と発熱で、急性腎盂腎炎として入院しました。
そのときのCRPは、約10 mg/dLでした。

一方で、
WBCはまた9,000/μL程度。

ここで、最初の採血を思い出しました。

初回も、

39℃の発熱
尿白血球3+
細菌1+

があったのに、
WBCは9,000/μL。

1週間後、

急性腎盂腎炎として入院するほどの状態になっても、WBCは大きく増えていませんでした。  

「あのときのWBC 9,000、やっぱり典型的な感染を示す数値ではなかったんだ」

と思いました。

ーー

検査室では、
WBC 9,000/μLだけを見ると、
そこまで目立つ数字ではありません。

基準範囲内なら、
つい「問題なさそう」と流してしまいそうになります。

でも今回、
単球16%で一度止まり、

主訴、尿、既往、その後の経過を見る。

そうすると、
同じWBC 9,000/μLでも、意味がまったく違って見えました。

感染症は、
必ず白血球が大きく増えるわけではありません。

感染から採血までの時間、
感染の程度、
感染部位、
重症度、
免疫状態、

によって、白血球反応は変わります。

特に今回のように免疫抑制下では、

「正常範囲=感染なし」

とは考えにくいことがあります。

ーー

💡症例から学んだこと

  • 好中球76%は細菌感染を考える。
  • 単球増加は、絶対数でも確認する。
    *単球の増加は、主訴や尿所見、既往を見直すきっかけになる。
  • 単球増加は感染、炎症、組織障害、悪性腫瘍などでみられる非特異的所見である。
  • 感染=白血球増加、ではない。
  • 検査値が基準範囲内でも、分画や主訴、既往、経過までつなげると意味が変わることがある。