pH 6.4。溺水後の血液ガスから考えたこと

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成人女性。

水没事故による溺水で救急搬送。

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体温は35℃。

酸素10 L/分投与中の血液ガスは、

pH 6.4
PaCO₂ 90 mmHg
PaO₂ 105 mmHg
HCO₃⁻ 7 mmol/L
Na 146 mmol/L
Cl 111 mmol/L
乳酸 260 mg/dL

でした。

ーー

最初に目に入ったのは、
pH 6.4
という値。

ここまで低い値を見ることはほとんどありません。
正直、
「これは大丈夫なのだろうか」
と一瞬思いました。

かなり重度のアシデミアです。

ーー

HCO₃⁻を見ると、
7 mmol/L
まで低下していました。

代謝性アシドーシスがあります。

ーー

一方、PaCO₂は、
90 mmHg
と著明に上昇していました。

代謝性アシドーシスが起こると、通常は呼吸を増やしてCO₂を排出しようとします。
そのため、代償が働いていればPaCO₂は低下するはずです。

しかし今回は、反対にCO₂が大きく上昇しています。

ここまでで、
代謝性アシドーシスと呼吸性アシドーシスが両方あるとわかります。

ーー

代謝性アシドーシスに対する呼吸性代償を確認しました。
Winterの式を使います。

予測PaCO₂
=1.5×HCO₃⁻+8±2

HCO₃⁻は7 mmol/Lなので、
1.5×7=10.5
10.5+8=18.5

予測PaCO₂は、
16.5〜20.5 mmHgになります。

しかし、実際のPaCO₂は、
90 mmHg

予測値とは全く合いません。

つまり、これは代謝性アシドーシスに対する代償ではなく、
別に呼吸性アシドーシスが合併している
ということになります。

ーー

呼吸性アシドーシス側からも見てみます
PaCO₂ 90 mmHgは、正常のPaCO₂を40 mmHgとすると、
50 mmHg上昇しています。

急性呼吸性アシドーシスでは、PaCO₂が10 mmHg上昇するごとに、HCO₃⁻は約1 mmol/L上昇します。
そのため、
24+5=29

予測HCO₃⁻は、
約29 mmol/Lです。

慢性呼吸性アシドーシスで考えれば、HCO₃⁻はさらに高くなるはずです。

しかし、実際のHCO₃⁻は、
7 mmol/Lでした。

これも呼吸性アシドーシスだけでは説明できません。

つまり、こちらから見ても、
強い代謝性アシドーシスが合併している
ことが分かります。

ーー

ここまでを整理すると、
重度の代謝性アシドーシス
重度の呼吸性アシドーシス
この2つが同時に起こっていました。

どちらか一方に対する代償ではありません。

2つの一次性の異常が重なった、混合性アシドーシス
です。

ーー

次にアニオンギャップを見ます

アニオンギャップは、
AG=Na−(Cl+HCO₃⁻)で計算します。

146−(111+7)=28
AG 28 mmol/Lです。

AGは上昇しており、
高アニオンギャップ性代謝性アシドーシスです。

ーー

ΔAGとΔHCO₃⁻も確認します
高AG性代謝性アシドーシス以外の代謝性異常が重なっていないかをみます。

正常AGを12 mmol/L、正常HCO₃⁻を24 mmol/Lとして計算します。

ΔAG
=28−12
=16

ΔHCO₃⁻
=24−7
=17

ほぼ一致しています。

補正HCO₃⁻も、
7+16=23 mmol/L
となり、正常に近い値になります。

ここから、代謝性アシドーシスは、
高AG性代謝性アシドーシスが主体であるとわかります。

明らかな正常AG性代謝性アシドーシスの合併は目立ちません。

ーー

乳酸は
260 mg/dL

かなり高い値です。

mg/dLを約9で割るとmmol/Lになるため、
260÷9≒29
乳酸は、
約29 mmol/Lになります。

ここまで乳酸が上昇していることから、
今回の高AG性代謝性アシドーシスは、
乳酸アシドーシスが主体です。

ーー

溺水で何が起こったのか

溺水では、呼吸ができなくなります。
換気ができなければ、CO₂を外へ出せません。

そのため、
換気不全

CO₂が蓄積

PaCO₂上昇

呼吸性アシドーシス
となります。

同時に、低酸素や循環不全によって、組織へ十分な酸素が届かなくなります。

すると、
低酸素・低灌流

嫌気性代謝

乳酸上昇

高AG性代謝性アシドーシス
となります。

今回の血液ガスは、
CO₂を排出できない状態と、
酸素が組織へ届かず乳酸が増えた状態が
同時に起こった結果と考えられます。

ーー

PaO₂は、

105 mmHg

一見すると、酸素化は保たれているように見えます。
しかし、採血時には酸素10 L/分が投与されていました。

そのため、このPaO₂だけを見て、
「酸素化は問題ない」
とは言えません。

ーー

体温は35℃で、軽度の低体温を認めました。

水中では体温が奪われやすくなります。
低体温によって、意識、呼吸、循環の働きがさらに低下する可能性があります。

溺水による低酸素や循環不全に加わり、全身状態を悪化させた可能性があると考えました。

ーー

今回、Winterの式や呼吸性アシドーシスの代償式を使いました。

ただ、正常な代償が成立しているかを見るというより、代償では全く説明できないことを確認するための計算だったように感じました。

PaCO₂から見ても、
HCO₃⁻から見ても、
一つの酸塩基異常では説明できません。

計算したことで、
重度の呼吸性アシドーシスと高AG性代謝性アシドーシスが同時に存在する
ことが、よりはっきりしました。

ーー

💡症例から学んだこと

  • pH、PaCO₂、HCO₃⁻の方向を最初に確認する。
  • HCO₃⁻低下とPaCO₂上昇が同時にあれば、代謝性アシドーシスと呼吸性アシドーシスの合併を考える。
  • Winterの式で実測PaCO₂が予測値より高ければ、呼吸性アシドーシスの合併を考える。
  • 呼吸性アシドーシス側から予測HCO₃⁻を計算することでも、代謝性アシドーシスの合併を確認できる。
  • AGが上昇している場合は、ΔAGとΔHCO₃⁻を比較する。
  • PaO₂は酸素投与量と合わせて見る。
  • 代償式は、代償を確認するだけでなく、別の酸塩基異常を見つけるためにも使う。