第1章ではショック、第2章ではDIC、第3章では血液ガスからARDSを考えました。
そして、この症例で最後の決め手となったのが血液塗抹標本でした。
ーー
血液塗抹を鏡検していると、
酵母様真菌を認めました。
本来、末梢血は無菌です。
健康な人の血液中に細菌や真菌が存在することはありません。
そのため、末梢血で酵母様真菌を認めた時点で、まず真菌血症を強く疑いました。
しかし、塗抹標本だけで真菌血症と断定することはできません。
染色時のコンタミネーションや標本作製時のアーチファクト、真菌に似た異物などを完全に否定することはできないからです。
だからこそ、
血液塗抹で異常に気付き、血液培養で確定する。
この流れが重要になります。
血液培養では、
真菌であることの確認だけでなく、
菌種の同定や薬剤感受性試験まで行うことができます。
今回も、酵母様真菌を認めた時点で、直ちに血液培養を依頼しました。
ーー
翌日の採血では、
AST 200U/L以上
ALT 1000 U/L以上
LD 2000U/L以上
BUN 28 mg/dL
Cr 2.9 mg/dL
血小板70000/μL、
Dダイマー 90μg/mL以上
となっていました。
ーー
まず目を引いたのは、
ALTが1000 U/Lまで上昇していたことでした。
さらにLDも2000 U/L以上と著明な高値でした。
前日には、
血圧低下、
高乳酸血症、
敗血症ショックという状態でした。
ショックでは循環血液量が維持できず、肝血流が著しく低下します。
肝臓は酸素消費量が多く、特に肝小葉中心部(Zone3、一番酸素濃度が低い部分)は低酸素に弱い部位です。
そのため虚血になると肝細胞が障害され、
AST、ALT、LDが一気に血中へ漏れ出します。
この病態が
ショック肝(虚血性肝障害)です。
ショック後24〜48時間でAST、ALT、LDが急上昇することが多く、この症例の経過とも一致しました。
ーー
翌日には、
BUN 28 mg/dL、
Cr 2.9 mg/dLまで上昇していました。
ショックでは腎血流も低下し、
急性尿細管障害を主体とした急性腎障害(AKI)を起こします。
肝臓だけではなく、腎臓にもショックの影響が及んでいました。
ーー
血液塗抹では、
NRBC presentも認めました。
NRBC(有核赤血球)は、本来骨髄内だけに存在し、健常成人の末梢血には出現しません。
NRBCが末梢血へ出現する背景には、
強い低酸素
敗血症
ショック
骨髄への強いストレスがあります。
骨髄が未熟な赤血球まで血中へ放出するほど、全身が危機的な状態だったことを示しています。
近年では、NRBCの出現は敗血症患者やICU患者において、重症度や予後不良と関連する指標としても知られています。
ーー
ここまでの経過を整理すると、
真菌感染から真菌血症となり、
敗血症へ進行しました。
さらに敗血症ショックとなり、
DICを合併し、
ARDSを発症。
その結果、
ショック肝、急性腎障害へ進行し、
最終的には、多臓器不全(MODS)という流れが見えてきます。
一つひとつの検査だけでは見えなかった病態も、
凝固検査、血液ガス、生化学検査、
そして血液塗抹をつなぎ合わせることで、
患者さんの状態を一本の線として理解することができました。
ーー
💡この症例から学んだこと
・顕微鏡で血液塗抹を丁寧に観察することの重要性
・自動分析装置だけでは気付けない異常が、一枚の塗抹標本には隠れていること
検査室から見える情報が、診断や治療の方向性を大きく左右することを、改めて実感した症例でした。
