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高齢男性。
発熱し、感染の疑いで来院。
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採血データを確認し、ひとつひとつ数値を追っていく中で、ふと手が止まりました。
Na 132 mEq/L。
発熱があるのに、ナトリウムが低下しています。
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まず、検査値を整理しました。
・Na:132 mEq/L
・Cl:95 mEq/L
・WBC:9,500 /µL(Neut 72%)
・血清浸透圧(実測):272 mOsm/kg
大きく崩れているわけではありません。
けれど、発熱と低Naの組み合わせが少し気になりました。
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🔬まず疑ったのは、データの信頼性でした。
採血希釈や抗凝固剤の影響で、
Naが見かけ上低く出ることがあります。
特に、高脂血症や高タンパク血症では、
測定法によって偽性低ナトリウムが起こることがあります。
多くの自動分析装置(間接ISE法)では検体を希釈して測定するため、
血漿中の水分割合が低下していると、
見かけ上ナトリウムが低く測定されることがあります。
このような場合、血液ガス分析装置(直接ISE法)では
正常値が得られることがあります。
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また、ナトリウムとクロールの関係にも注目しました。
クロールは酸塩基平衡の影響を受けやすく、
ナトリウムと必ずしも同じ動きをするとは限りません。
ただし、ナトリウムのみが低下しクロールとの乖離がある場合には、
偽性低ナトリウムや測定異常を疑うきっかけになります。
今回、NaとClは並行して低下しています。
不自然なズレはありません。
少なくとも、単純なアーチファクトとは考えにくいようでした。
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次に、血清浸透圧を確認しました。
血清浸透圧は 272 mOsm/kg。
低値です。
浸透圧が正常なら偽性低Na、
高値なら高血糖などを考えます。
今回は低値。
低張性低ナトリウム血症として矛盾はありません。
ここまでくると、
「本当にNaが下がっている」と考えるほうが自然でした。
低ナトリウムを見たとき、まず確認すべきなのは浸透圧です。
数値だけで判断せず、
その低下が「本当に低張性なのか」を考えることが、
次の一手につながります。
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発熱なのに、Naが低い。
発熱があれば、不感蒸泄は増えます。
脱水傾向となり、
Naはむしろ上昇することが多い印象があります。
それなのに、Naは下がっている。
単純な脱水だけでは説明しにくい状態でした。
そこで思い浮かんだのが、
感染に伴うADH分泌亢進でした。
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🔬感染や炎症が起こると、
・IL-6
・IL-1
・TNF-α
といったサイトカインが分泌されます。
それらが非浸透圧性にADHを刺激することがあります。
水が体内に貯留し、
希釈性にNaが低下する。
いわゆるSIADH様の状態です。
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今回の症例でも、
炎症性サイトカインの関与が考えられました。
前回の症例と同様に、
炎症の中で共通した機序が見えてくると、
理解が少しずつつながってくる感覚があります。
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高齢者という背景も重要です。
高齢者では自由水排泄能が低下していることが多く、
わずかな水分バランスの変化でもNaが動きやすい印象があります。
感染というストレスが加われば、なおさらです。
――
WBCは9,500 /µL。
著明な上昇ではありません。
ただ、Neut 72%と好中球優位です。
高齢者では、感染があっても
白血球が大きく上がらないこともあります。
発熱と合わせると、
感染を背景に考えることに違和感はありませんでした。
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すべてを並べてみると
・発熱
・低Na
・低浸透圧
・NaとClの並行低下
単純な脱水よりも、
感染に伴うADH亢進のほうがしっくりきました。
もちろん、輸液内容や経過の確認は必要です。
けれど、
数値は一つの方向を示していました。
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💡この症例の学び
・低ナトリウムを見たら、まず浸透圧を確認する
・ナトリウムとクロールの関係は、データの信頼性を考えるヒントになる
・発熱=脱水=Na上昇とは限らない
・感染ではサイトカインを介した水分バランスの変化が起こり得る
派手な異常ではありませんでした。
でも、
検査値の並び方が、病態を教えてくれていました。
低ナトリウムを見たとき、
その背景にある水分バランスと浸透圧を意識すること。
この症例は、それをあらためて考えさせてくれました。