貧血で紹介された症例から見えた全身の変化

__________________

高齢男性。
他院で貧血を指摘され、当院を受診。
既往:うつ病

__________________

まず、検査データを確認しました。

【検査結果】

WBC 11,000 /µL
CRP 8.0 mg/dL
PCT 0.69 ng/mL

BUN 140 mg/dL
Cr 3.7 mg/dL
UA 12 mg/dL
K 5.7 mEq/L
Cl 117 mEq/L
浸透圧 340 mOsm/kg

AST 200 U/L
ALT 212 U/L
LD 290 U/L
ALP 145 U/L
ChE 189 U/L
T-Bil 0.4 mg/dL
D-Bil 0.2 mg/dL

TP 5.5 g/dL
Alb 2.8 g/dL
LDL 31 mg/dL
HDL 29 mg/dL
TG 130 mg/dL

RBC 2.2 ×10⁶/µL
Hb 7.7 g/dL
MCV 103 fL
RET 2.2 %
RET-Hb 35 pg
PLT 17万 /µL

APTT 18 sec

尿:pH7.0、蛋白1+、潜血1+、RBC 1/HPF、尿細管上皮細胞+、桿菌+

貧血で紹介された症例でした。

ただ、データを眺めていると、
貧血だけでは説明できない印象を受けました。

――

まず目に入ったのは、栄養状態でした。

Alb 2.8 g/dL、TP 5.5 g/dL。

脂質も低値で、慢性的な低栄養が示唆されます。

ChEの低下も、肝合成能や栄養状態の低下を反映している可能性があります。

体はすでに消耗した状態にあるように見えました。

――

次に、炎症の存在です。

WBCは軽度上昇、CRPは高値、PCTも軽度上昇しています。

尿中には桿菌が認められました。

まずは尿路感染症を疑いました。

――

感染が加わると、体は防御反応としてエネルギー消費を増やします。

サイトカインの影響により、
筋肉や脂肪が分解され、エネルギー源として利用される状態になります。

いわゆる「カタボリック(異化亢進)」の状態です。

体を守る反応ではありますが、
同時に全身の消耗を進めます。

――

AST・ALTの上昇から肝細胞障害が示唆されます。

胆道系酵素やビリルビンは大きく上昇しておらず、
重度の肝疾患というよりは、

脱水や感染による低灌流や、
全身ストレスに伴う軽度の肝障害の可能性が考えられました。

――

腎機能の異常も目立ちました。

BUN 140 mg/dL、Cr 3.7 mg/dL。

BUN/Cr比は高値で、
脱水と感染ストレスが重なった腎前性要素の強い急性腎障害が考えられました。

カタボリック状態では蛋白分解が進むため、
尿素窒素(BUN)が上昇しやすくなります。

そこに脱水が加われば、
さらに数値は上昇します。

K高値や浸透圧上昇も、
腎排泄低下と体液バランスの乱れを支持する所見でした。

――

改めて貧血を見ます。

Hb 7.7 g/dL、MCVは100以上で大球性です。

RET-Hbは保たれており、
鉄欠乏は強くは示唆されません。

栄養不良では鉄欠乏による小球性貧血をきたすこともありますが、
今回のような大球性変化は、葉酸やビタミンB12不足などの関与も考えられます。

さらに、感染による消耗や腎機能低下による造血低下も重なり、
複数の要因が関与している可能性がありました。

貧血は単独の問題というより、
全身状態の悪化の一部のように見えました。

――

全体像として

低栄養状態の患者が、
感染を契機にカタボリック状態に入り、

脱水、急性腎障害、電解質異常、
そして貧血の進行を呈している状態が考えられました。

紹介理由は「貧血」でした。

しかし実際には、
炎症、腎機能、栄養、造血が連鎖していました。

――

💡この症例の学び

・紹介理由(貧血)だけでなく、全身の状態を捉えることが重要
・栄養状態は病態の土台となり、感染で一気に崩れることがある
・カタボリック状態では、BUN上昇など全身の消耗が検査値に反映される
・貧血は単独の問題ではなく、栄養・炎症・腎機能が関与する結果として現れることがある
・検査値は個々ではなく、並べてみることで全体像が見えてくる

――

数値を一つずつ見るとばらばらに見えます。

けれど並べてみると、
体が消耗していく流れが見えてきます。

検査値は、
全身で起きている変化を映していました。

こうした変化の背景にある「カタボリック」という状態については、
別で整理してみたいと思います。